
クロード・モネ《夏のヴェトゥイユ》1880年
近づくと村が消える。モネ《夏のヴェトゥイユ》を埋める無数の筆跡
川の向こうに、小さな村があります。
中央には教会の塔。
その下には家々が並び、空と村の姿がセーヌ川の水面に映っています。
一見すると、穏やかな夏の風景です。
ところが、この絵に近づいていくと、
景色は少しずつ形を失います。家は絵具のタッチに。水面は短い線の集まりに。川に映った村は、色の中へほどけていきます。
メトロポリタン美術館は、この作品について少し意外な説明をしています。
モネは、色と光の感覚をできるだけ正確に記録しようとしていた。
ところが、その試みは皮肉にも、像が無数の絵具のタッチにほとんど溶けた、抽象に近い絵を生み出した。
どういうことなのでしょうか。
モネが見ていたのは、セーヌ川の「向こう側」

まず、この絵がどこから描かれた景色なのかを確認してみましょう。
描かれているのは、フランスのヴェトゥイユ。モネはセーヌ川を挟んだ反対側の岸から、村を見ています。
画面は横長で、60×99.7cm。上半分には空と村。下半分にはセーヌ川が広がります。
村の中心に見えるのが、教会の塔。左手前には細い木立があり、右へ向かってゆるやかに丘が続きます。
そして川の手前には、小さな舟が一艘。人の姿も見えます。
ここまでは、確かに「川の向こうにある村の風景」です。
では、少し近づいてみます。
どこまで近づけば、「村」ではなくなるのか

遠くから見れば、教会と家がある
作品全体を見ると、中央の教会を中心に村の輪郭を読み取ることができます。空があり、丘があり、建物がある。ところが拡大すると、それぞれの形は細い輪郭線できっちり囲まれているわけではありません。色の違う絵具のタッチが隣り合い、それが少し離れた場所から見たときに、建物や丘としてまとまって見えています。「家を描いた線」があるというより、絵具の集まりを、私たちの目が家として見ている。そんな画面です。

水に映ると、村はさらにほどける
画面の上には、川の向こうの村。その下には、村を映した水面があります。しかし水の中では、建物の形はそのまま繰り返されません。色が下へ伸び、揺れ、短い筆跡の中へ崩れていきます。上にある村の色と、下にある水の色。その境界も、はっきりとはしていません。村の姿が、水面の中で少しずつ色へ戻っていくように見えます。

水面だけを見ると、もう何を描いた絵か分からない
さらに下の水面だけを切り取ってみます。ここでは、短い横方向の筆跡が繰り返されています。上の方ではその間隔が詰まり、手前へ来るにつれて一つひとつのタッチが見えやすくなります。この部分だけを大きく見せられたら、「セーヌ川を描いた絵」とすぐには分からないかもしれません。見えるのは、さまざまな色の短い線。それでも作品全体まで離れると、その線の集まりが再び水面になります。

全体

村

水面
メトロポリタン美術館は、この作品の一筆一筆の揺らぎについて、
色と光の感覚をできるだけ正確に記録しようとしたモネの関心を反映している
と説明しています。
そして、そこには少し皮肉な結果が生まれました。
目の前の色と光を筆触で追っていくほど、建物や水といった「物の形」は明確になるのではなく、無数の絵具のタッチへ溶けていく。
同館は、この方法によってモネの絵が次第に「抽象的な性質」を帯び、この作品では像が無数の絵具のタッチの中にほとんど溶けている、と説明しています。
正確に見ようとするほど、形が消えていく。
《夏のヴェトゥイユ》のおもしろさは、そこにあります。

それでも、手前に一艘の舟がある
色のタッチへほどけていく水面の中に、小さな舟が一艘浮かんでいます。そこには人も乗っています。広い川に対して、とても小さな存在です。
この小舟まで見つけると、色と筆触に目を奪われていた画面の中に、ほんの小さな「人のいる風景」が現れます。
遠くから見れば、村。近づけば、絵具。小舟を探せば、そこには人もいる。見る距離によって、同じ一枚の中で拾えるものが変わります。

1880年は、絵の中にも書かれている
作品の右下には、モネの署名があります。
「Claude Monet 1880」
名前だけではなく、制作年も4桁で書かれています。
現在の作品情報から年代を知るだけでなく、実際の画面そのものにも1880年という数字が残っているのです。
この絵は、どうやってニューヨークへ渡ったのか
《夏のヴェトゥイユ》が1880年に描かれてから、現在のメトロポリタン美術館へ入るまで。
Metが公開している来歴は、比較的シンプルです。
所蔵先の移り変わりを見る
- 1912年まで
ベーレン夫人が所蔵 - 1912年
パリとニューヨークのデュラン=リュエルへ - 1912年
ニューヨークのウィリアム・チャーチ・オズボーンが取得 - 1951年
オズボーンの死去まで所蔵 - 1951年
遺贈によってメトロポリタン美術館へ
美術館のものになる前から、Metに来ていた
面白いことに、《夏のヴェトゥイユ》がMetへ入ったのは1951年ですが、それ以前から同館で展示されていました。
所有者のオズボーンが、作品を何度も展覧会へ貸し出していたからです。
1920年には、Metの創立50周年記念展。
翌1921年には、同館の「印象派・ポスト印象派絵画展」に出品番号75で展示されました。
そのときの題は、シンプルに《Vétheuil》。
美術館の所蔵品になる約30年前から、この絵はMetの壁に掛かっていたのです。
1945年には「ジヴェルニーの子どもたち」のために
1945年、この作品はニューヨークのヴィルデンシュタイン画廊で開催されたモネ展にも貸し出されました。
展覧会の目的として記録されているのは、
「ジヴェルニーの子どもたちのため」。
《夏のヴェトゥイユ》は出品番号33として展示されています。
その後も1995年のシカゴ美術館のモネ展、2013年のルーアン美術館の印象派展などへ貸し出されてきました。
1880年、セーヌ川の向こう岸からモネが見たヴェトゥイユ。
遠くから見れば、川と村の風景。近づけば、短い筆跡の集まり。さらに探せば、その中には小さな舟と人までいます。一枚の中で、見る距離によって「風景」と「絵具」の間を行き来する作品です。
artgraph.では、ご注文ごとに一枚ずつプリントします。
¥1,900 から(A5・フレームなし・税込)
横長だから、距離を変えて見てみる
原画の大きさは、
60 × 99.7cm。
横幅は、ほぼ1メートルあります。
この横長の画面に、空、村、川が上下に重なっています。
小さなサイズでは村と水面をひとつの風景として。
大きなサイズでは、水面や建物をつくる細かな色のタッチにも目を向けやすくなります。
当店で使用している図版も、原画とほぼ同じ縦横比です。
置いてみる
どのくらいの大きさになるか
サイズと額装を変えると、見え方がその場で変わります。お部屋の写真に合わせて確かめてください。

壁の主役にするなら B2 以上、机や棚の上に置くなら A4〜A3 が扱いやすい寸法です。数字だけではつかみにくいので、スマートフォンのカメラで原寸を自分の壁に置いて確かめられます。
受け取るもの
「村」と「筆跡」の両方を見る
《夏のヴェトゥイユ》では、細部まで輪郭をくっきり描いた建物よりも、無数の色のタッチが集まって風景をつくっています。
少し離れて全体を見る。
近づいて水面を見る。
また離れる。
距離を変えることで、同じプリントの中でも見えるものが変わります。

用紙
EPSON のアート紙・190g/m²。表面がマットで、光を反射しにくい紙です。
印刷
ジークレープリント。在庫を持たず、ご注文のたびに1枚ずつ出力します。


色
artgraph.の商品は、原本画像に記録された色や明暗をプリントするものです。
選ぶ
サイズと価格
| サイズ | 用紙寸法 | 価格(フレームなし・税込) |
|---|---|---|
| A5 | 148 × 210 mm | ¥1,900 |
| A4 | 210 × 297 mm | ¥2,400 |
| B4 | 257 × 364 mm | ¥2,800 |
| A3 | 297 × 420 mm | ¥3,800 |
| B3 | 364 × 515 mm | ¥4,200 |
| A2 | 420 × 594 mm | ¥4,800 |
| B2 | 515 × 728 mm | ¥5,800 |
| A1 | 594 × 841 mm | ¥6,800 |
| B1 | 728 × 1030 mm | ¥7,800 |
絵柄の縦横比は作品ごとに違うため、用紙のどこまで絵が入るかも作品×サイズごとに変わります。この作品の実寸と余白は、商品ページの「サイズ・価格表」でご確認いただけます。「余白あり」と「余白なし」を選べます。
選ぶ理由
同じ絵でも、どこで刷るかで変わります
- 用紙と印刷方式を公開しています(アート紙190g/m²・ジークレープリント)。
- A5からB1まで9サイズ、額装7種から選べます。壁に合わせて決められます。
- ご注文を受けてから1枚ずつ刷る受注生産です。刷ってから送ります。
- 原画の情報(制作年・所蔵先)を作品ごとに載せています。当社は各所蔵先と提携しておりません。プリントはパブリックドメインの図版をもとに当社が制作しています。
お届け
注文から届くまで
| 出荷まで(フレームなし) | 3営業日 |
|---|---|
| 出荷まで(額装込み) | 10営業日 |
| 配送料 | 11,000円以上のご注文は無料 |
| お届け先 | 日本国内 |
土日祝日・弊社休業日を除く営業日数です。繁忙期はお時間をいただく場合があります。 返品・交換の条件は返品ポリシー、事業者の表示は特定商取引法に基づく表記をご確認ください。
最後に、もう一度作品全体を見てみてください。

最初に見たときには、
川の向こうにある、夏の村の風景だったかもしれません。
中央には教会。
その下には家々。
セーヌ川には、それらを映した水面。
そして小さな舟。
でも、近づけば村の輪郭は崩れます。
水も、家も、丘も、短い絵具のタッチへ変わっていきます。
モネが追いかけていたのは、物の輪郭だけではなく、そのとき目に入った色と光でした。
その結果について、Metは「皮肉にも」と書いています。
正確に色と光を記録しようとした画面が、やがて形を失い、抽象に近づいていったからです。
離れれば、1880年のヴェトゥイユ。
近づけば、絵具の跡。
その両方が、同じ一枚の中にあります。
¥1,900 から(A5・フレームなし・税込)
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出典
・The Metropolitan Museum of Art, “Vétheuil in Summer,” 1880, Claude Monet, 51.30.3
・The Metropolitan Museum of Art, Provenance / Exhibition History / Inscription
・Musée d’Orsay, Claude Monet author record
※作品の色・配置・舟・筆触などについては、当店取扱図版から直接確認できる視覚的特徴を含みます。
※「色と光の感覚をできるだけ正確に記録しようとした」「像が無数の絵具のタッチの中にほとんど溶けている」「抽象的な性質」という説明は、メトロポリタン美術館による作品解説に基づきます。
図版について:作品の全図と切り出し(教会と村、村の反射、水面、小舟、署名)は、当社が印刷に用いている原版からのもので、加工も生成もしていません。ヒーローの額装イメージは、当社が販売する額装プリントの3Dモデルを描き出したものです(生成AIではありません)。duoの川面の背景とヒーローの夏の川面の背景は、当社が生成AIで作成した画像です。当時の記録写真ではありません。
当社は各所蔵先と提携しておりません。


