
クロード・モネ《日傘をさす女―モネ夫人と息子》1875年
なぜモネの《日傘をさす女》は、こちらを振り返っているのか
丘の上に立つ、日傘をさした女性。
風を受けた白い服が揺れ、足元には草花が広がっています。
彼女の体は左を向いているのに、顔だけはこちらを振り返っています。
まるで、少し離れたところにいる誰かに気づいたような姿です。
では、彼女はいったい誰を見ているのでしょうか。
この絵を描いたのは、クロード・モネ。
日傘をさしているのは、妻のカミーユです。そして、少し後ろに立つ少年は、二人の息子ジャン。
これは、モネが自分の妻と息子を描いた一枚なのです。
画家の家族が、丘の上にいる

この絵が描かれたのは1875年。
モネは、草の生い茂る丘の上に立つ妻カミーユと息子ジャンを、下から見上げる位置で描きました。
画面は縦100cm、横81cm。
その縦長の画面いっぱいに、青い空と白い雲が広がっています。
カミーユはモスグリーンの日傘を頭上に掲げ、顔だけをこちらへ向けています。
一方、少し離れた場所にいるジャンは、こちらを見ていません。白い上着と淡い黄色の麦わら帽を身につけ、画面の左の遠くを眺めています。
二人は同じ丘の上にいるのに、視線は別々の方向へ向いているのです。

カミーユ モネの妻。体は画面左へ向き、顔はこちらを振り返っている。
ジャン モネの息子。カミーユの後方に立ち、画面左の遠くを見ている。
絵を見る私たち 丘のふもと側から、二人を見上げる位置にいる。
ここで、もう一度カミーユの顔を見てみましょう。
妻が振り返る、その一瞬を描いた

体は前へ、顔だけはこちらへ
カミーユの体は画面の左を向いています。けれど、顔は私たちのほうへ向けられています。真正面を向いて立つ肖像画とは違い、歩いている途中で振り返ったように見える姿です。この絵を描いたのは、彼女の夫であるモネ。私たちは絵を見るとき、丘の下から妻と息子を見上げていた画家の視点に立つことになります。そう考えてカミーユの顔を見ると、単なる「日傘をさした女性の絵」が、夫が妻を見つめて描いた風景として見えてきます。ただし、モネが声をかけたのか、カミーユが自分から振り返ったのかは分かっていません。この絵に残されているのは、そのやり取りの説明ではなく、こちらを向いた彼女の姿です。

顔の前を、風が通り抜ける
カミーユの顔をよく見ると、白い絵の具の長い筆跡が横切っています。ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、この白い筆跡を、風にはためくヴェールを表したものと説明しています。服の背中側やスカートにも、光を受けた白い筆跡が斜めに重なっています。輪郭をくっきり描き込まなくても、ヴェールや服が風を受けている様子が伝わってきます。彼女の顔を細かく描くことよりも、風の中で振り返る、その姿全体が画面に残されています。

足元を見ると、二人との距離が分かる
カミーユの足元には、黄色や紫色の小さな色が散っています。黄色はキンポウゲなどの花を思わせ、同じ黄色はカミーユの袖にも映り込んでいます。そして、彼女の影は草の上を斜めに、画面の手前へ長く伸びています。私たちは丘の下から二人を見上げています。その手前側へ、カミーユの影が伸びてくる。足元の草や影にも目を向けると、人物だけでなく、丘の上からこちらへと続く空間を感じられます。モネは妻と息子を、同じ高さから横に眺めたのではありません。少し下にいる画家の視線が、丘の上の二人へ向かっている。その位置関係も、この絵の見え方をつくっています。

息子は、こちらを見ていない
カミーユから少し離れた左側には、息子ジャンが立っています。草と花が腰のあたりまで伸びているため、丘の向こう側に立っているようにも見えます。腕は下ろしたまま。顔は画面左の遠くへ向いています。
母親は画家のほうを振り返り、息子は別の方向を見ている。二人がそろってこちらを向いていないことで、家族が記念撮影のために整列したような画面にはなっていません。それぞれが別のものを見ている、散歩の途中の一場面として感じられます。
この絵は、最初から「日傘をさす女」という題名だったのか

この絵は、描かれた翌年の1876年、パリの第2回印象派展に出品されました。そのときの題名は、現在よく知られる《日傘をさす女》ではなく、《Promenade(散歩)》。出品番号は161番でした。つまり、1876年の展覧会では、日傘をさす女性ではなく、「散歩」という場面を示す題名で紹介されていたのです。現在の作品名には、日傘をさす女性がモネ夫人カミーユであり、そばにいる少年が息子ジャンであることが明記されています。題名が変わると、作品を見始める場所も少し変わります。「散歩」という場面を見るのか。「日傘をさす女性」を見るのか。それとも「モネの妻と息子」を見るのか。同じ一枚でも、題名から受け取る情報は異なります。
よく似た日傘の絵が、もう2枚ある
モネの「日傘をさす女性」の絵を探すと、よく似た構図の作品がほかにも見つかります。女性が丘の上に立ち、日傘を掲げる。空を背景にした、縦長の画面。しかし、同じ絵の別バージョンとして、すべてを一緒にしてはいけません。

1875年 妻カミーユと息子ジャン
今回の作品は1875年に描かれました。登場するのは妻カミーユと息子ジャン。画面右下には、モネ自身の署名と年号が残されています。「Claude Monet 75」現在は、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵作品です。
1886年 日傘をさす、別の女性
こちらは11年後、1886年の作品。オルセー美術館が所蔵する《戸外の人物習作》の一枚です。モデルはカミーユではありません。オルセー美術館の作品記録によれば、描かれているのはスザンヌ・オシュデ。のちにモネの2番目の妻となるアリス・オシュデの娘です。

同じ1886年には、反対向きの一枚も
1886年の《戸外の人物習作》には、女性の向きが異なるもう一枚があります。この2点は対になる作品として記録されています。どちらも、今回の1875年の絵とは別作品です。見分ける手がかりの一つが、署名に添えられた年号。1875年の本作には「75」。1886年の2点には「86」。1875年の本作と1886年の2点は、よく似た日傘の構図でありながら、制作年もモデルとなった女性も異なります。
モネの家族を描いた一枚は、その後どこへ行ったのか
この絵は1876年にモネの手を離れ、医師ジョルジュ・ド・ベリオの所蔵となりました。その後、複数の個人コレクションを経て、1983年にポール・メロンからワシントン・ナショナル・ギャラリーへ寄贈されました。1999年と2011年には日本の展覧会にも出品されています。
所蔵先の移り変わりを見る
- 1875年 モネが妻カミーユと息子ジャンを描く。
- 1876年 第2回印象派展に《Promenade(散歩)》として出品。同じ年、作品は医師ジョルジュ・ド・ベリオの手に渡る。
- その後 相続によってドノップ・ド・モンシー夫妻へ。少なくとも1897年までの所蔵記録が残る。
- 1924年までに パリのジョルジュ・ムニエの所蔵となる。
- 1965年 パリで行われたムニエの所蔵品売立で、画商エクトール・ブラームがポール・メロンのために購入。
- 1983年 ポール・メロンからワシントン・ナショナル・ギャラリーへ寄贈される。
- 現在、この絵は同館のコレクションとなっています。また、1999年と2011年には日本で開催された展覧会にも出品されました。
モネが家族を描いた一枚は、画家の手を離れ、個人コレクションを経て、美術館で多くの人が見る作品になったのです。
1875年、モネが丘の下から見上げて描いた、妻と息子の姿。
こちらを振り返るカミーユ。遠くを見るジャン。風にはためくヴェールと、草の上をこちらへ伸びる影。家族の散歩の一場面として描かれた作品を、今度は自分の部屋で眺める。
artgraph.では、ご注文ごとに一枚ずつプリントします。
¥1,900 から(A5・フレームなし・税込)
どのくらいの大きさになるか
原画の大きさは、縦100cm、横81cm。縦長の作品です。
日傘の上端から、足元の草や手前へ伸びる影までが、一枚の縦長の画面に収められています。
置いてみる
どのくらいの大きさになるか
サイズと額装を変えると、見え方がその場で変わります。お部屋の写真に合わせて確かめてください。


壁の主役にするなら B2 以上、机や棚の上に置くなら A4〜A3 が扱いやすい寸法です。数字だけではつかみにくいので、スマートフォンのカメラで原寸を自分の壁に置いて確かめられます。

受け取るもの
刷り方と、紙のこと
原画は、カンヴァスに描かれた油彩画です。空の雲には大きく動く筆跡が残り、草花や服にも短い色の重なりが見られます。プリントでは、こうした原画画像に記録された色や筆跡を、平面の印刷として再現します。

用紙
EPSON のアート紙・190g/m²。表面がマットで、光を反射しにくい紙です。
印刷
ジークレープリント。在庫を持たず、ご注文のたびに1枚ずつ出力します。


色
プリントでは、こうした原画画像に記録された色や筆跡を、平面の印刷として再現します。

選ぶ
サイズと価格
| サイズ | 用紙寸法 | 価格(フレームなし・税込) |
|---|---|---|
| A5 | 148 × 210 mm | ¥1,900 |
| A4 | 210 × 297 mm | ¥2,400 |
| B4 | 257 × 364 mm | ¥2,800 |
| A3 | 297 × 420 mm | ¥3,800 |
| B3 | 364 × 515 mm | ¥4,200 |
| A2 | 420 × 594 mm | ¥4,800 |
| B2 | 515 × 728 mm | ¥5,800 |
| A1 | 594 × 841 mm | ¥6,800 |
| B1 | 728 × 1030 mm | ¥7,800 |
絵柄の縦横比は作品ごとに違うため、用紙のどこまで絵が入るかも作品×サイズごとに変わります。この作品の実寸と余白は、商品ページの「サイズ・価格表」でご確認いただけます。「余白あり」と「余白なし」を選べます。
選ぶ理由
同じ絵でも、どこで刷るかで変わります
- 用紙と印刷方式を公開しています(アート紙190g/m²・ジークレープリント)。
- A5からB1まで9サイズ、額装7種から選べます。壁に合わせて決められます。
- ご注文を受けてから1枚ずつ刷る受注生産です。刷ってから送ります。
- 原画の情報(制作年・所蔵先)を作品ごとに載せています。当社は各所蔵先と提携しておりません。プリントはパブリックドメインの図版をもとに当社が制作しています。
お届け
注文から届くまで
| 出荷まで(フレームなし) | 3営業日 |
|---|---|
| 出荷まで(額装込み) | 10営業日 |
| 配送料 | 11,000円以上のご注文は無料 |
| お届け先 | 日本国内 |
土日祝日・弊社休業日を除く営業日数です。繁忙期はお時間をいただく場合があります。返品・交換の条件は返品ポリシー、事業者の表示は特定商取引法に基づく表記をご確認ください。
最後に、もう一度作品全体を見てみてください。

最初に見たときは、日傘をさした女性と少年の、明るい散歩風景に見えたかもしれません。けれど、女性がモネの妻カミーユであり、少年が息子ジャンだと知ると、二人を見る位置にも意味が生まれます。丘の下から妻と息子を見上げるモネ。こちらを振り返るカミーユ。遠くを見つめるジャン。私たちはこの絵を通して、モネが妻と息子を見上げた視点から、二人の姿を眺めることができます。1875年、モネが描いた家族の散歩。その一瞬が、この一枚に残されています。
¥1,900 から(A5・フレームなし・税込)
同じ人が描いた絵
クロード・モネの、ほかの一枚
出典
・National Gallery of Art — Woman with a Parasol—Madame Monet and Her Son (作品情報・画面解説・来歴)
・Musée d’Orsay — Essai de figure en plein-air : Femme à l’ombrelle tournée vers la droite (1886年の作品・モデル・署名)
・フランス文化省 POP/Joconde 作品記録 (1886年の対作品)
・National Gallery of Art — Open Data (展覧会歴・作品寸法)
図版について:作品の図版(全図、カミーユ・ジャンの切り出し、比較カード、最後の全図)は、当社が印刷に用いている原版からの切り出しで、加工も生成もしていません。1886年の左向きの図版は、当社が販売する《スザンヌ・オシュデ》の印刷原版からの切り出しです。ヒーローの額装イメージは、当社が販売する額装プリントの3Dモデルを描き出したものです(生成AIではありません)。ヒーロー背景と「では、彼女はいったい誰を見ているのでしょうか。」の背景は、当社が生成AIで作成した画像です。当時の記録写真ではありません。
当社は各所蔵先と提携しておりません。
















