William Hogarth(ウィリアム ホガース)

ウィリアム・ホガース

ウィリアム・ホガースは、18世紀のイギリスを代表する画家、版画家です。当時の社会や風俗を鋭い洞察力で捉え、道徳的な教訓を込めた物語形式の連作絵画や版画を制作したことで知られています。「英国絵画の父」とも称され、イギリス独自の芸術の確立に大きく貢献しました。

ウィリアム・ホガース 経歴

• 1697年11月10日：ロンドンで、ラテン語教師で文筆家の父のもとに生まれる。

• 1710年代：銀細工師の徒弟となり、彫版技術を習得する。

• 1720年：独立して自身の工房を開き、版画家として活動を開始。書物の挿絵や風刺版画などを制作する。

• 1729年：師であった宮廷画家サー・ジェームズ・ソーンヒルの娘、ジェーン・ソーンヒルと駆け落ち同然で結婚する。

• 1731年頃：最初の物語連作『娼婦一代』を発表。絵画と版画の両方で大きな成功を収め、その名声を確立する。

• 1735年：『放蕩者一代』を発表。また、自身の版画作品の海賊版に苦しんだ経験から、芸術家の著作権を保護するための法案（通称「ホガース法」）の成立に尽力する。

• 1743-45年：代表作となる連作『当世風の結婚』を制作。

• 1757年：国王ジョージ2世により、義父も務めた首席宮廷画家に任命される。

• 1764年10月26日：ロンドンで死去（享年66歳）。

代表作品

• 連作『娼婦一代』（A Harlot's Progress）（1731年頃）

• 連作『放蕩者一代』（A Rake's Progress）（1735年頃）

• 連作『当世風の結婚』（Marriage A-la-Mode）（1743-45年）

• 連作『勤勉と怠惰』（Industry and Idleness）（1747年）

• 『ホガースの召使いたち』（1750-55年頃）

• 『シュリンプ・ガール（えび売りの少女）』（1740-45年頃）

ホガースは、自らの作品を「近代道徳の主題（Modern Moral Subjects）」と呼びました。これは、演劇の舞台のように、連続する場面で物語を展開させ、登場人物の道徳的な堕落やその悲劇的な結末を描き出すという、独創的な試みでした。彼は、18世紀イギリス社会の虚栄、偽善、貧困、アルコール問題などを、ユーモアと風刺を交えて克明に描き出しました。

彼の作品は、細部に至るまで物語の筋や登場人物の性格を暗示する小道具やシンボルで満ちており、鑑賞者は画面の隅々まで読み解く楽しみを味わうことができます。また、絵画だけでなく、それを元にした版画を安価で大量に販売することで、幅広い階層の人々が彼の芸術に触れることを可能にしました。こうした革新的な手法と社会批評の精神は、後の風刺画のジャンルに絶大な影響を与え、イギリス美術が大陸の模倣から脱却する大きな一歩となりました。