レッサー・ユリィ 経歴

• 1861年11月7日、プロイセン王国ポーゼン州ビルンバウム（現ポーランド・ミエンジフート）にユダヤ系の家庭に生まれる。
• 1872年頃、家族とともにベルリンに移住。
• 1879年、デュッセルドルフ美術アカデミーに入学し絵画を学び始める。その後、ブリュッセル、パリ、シュトゥットガルト、ミュンヘンなどヨーロッパ各地で修業を積む。特にパリではジャン＝フランソワ・ラファエリやギュスターヴ・ブーランジェに師事し、印象派の影響を受ける。
• 1887年、ベルリンに戻り、以後主にベルリンで活動。当初は伝統的な画題も手がけたが、次第に都市風景、特にベルリンの街角やカフェ、夜景を主題とするようになる。
• 1893年、マックス・リーバーマンらの「11人協会」の展覧会に参加。
• 1900年代初頭、ベルリン分離派の展覧会にも出品するが、気難しい性格もあって主流の美術界とは一定の距離を保った。
• 生前は一定の評価を得ていたものの、同時代のマックス・リーバーマンほどの広範な名声は得られなかった。
• 1921年、ベルリン美術アカデミーの会員となる。
• 1931年10月18日、ベルリンにて死去（享年69歳）。彼の死後、ナチス政権下でその作品は「退廃芸術」とはされなかったものの、ユダヤ人画家であったため公の場から姿を消し、多くが散逸したり破壊されたりした。

代表作品

• 『ベルリンの雨』 (Berliner Straße im Regen / Berlin Street in Rain) (多数制作、特に1920年代)
• 『ウンター・デン・リンデン』 (Unter den Linden) (多数制作)
• 『ポツダム広場の夜』 (Potsdamer Platz bei Nacht / Potsdamer Platz by Night) (1920年代)
• 『カフェ・バウアー』 (Im Café Bauer) (多数制作、特に1880年代後半-1900年代初頭)
• 『エルサレム』 (Jerusalem) (聖書的風景画の連作、1920年代)
• 『自画像』 (Self-Portrait) (多数制作)

レッサー・ユリィの芸術

レッサー・ユリィの芸術は、ドイツ印象派の一翼を担いつつも、独自の詩情と都会的な感性を特徴としています。彼は、大都市ベルリンの喧騒、雨に濡れた街路の輝き、ガス灯や車のヘッドライトが織りなす夜景、カフェの賑わいといった、近代都市の風景とその雰囲気を好んで描きました。その筆致は時に素早く、光と色彩の瞬間的な印象を捉えようとする印象派的な特徴を示しつつも、対象に対してより主観的で感情的なアプローチが見られます。

特に、雨や霧、夕暮れといった特定の気象条件下での光の効果を追求し、メランコリックで詩的な情景を創り出しました。『ベルリンの雨』の連作は、彼の最も有名なテーマであり、濡れた路面に反射する光や傘をさして行き交う人々を、独特の色彩感覚で描き出しています。油彩だけでなくパステルも得意とし、その柔らかな質感は彼の作品の雰囲気を高めるのに貢献しました。また、晩年には聖書の場面や故郷の風景も描いていますが、最も評価が高いのはベルリンの都市風景です。彼の作品は、世紀末からヴァイマル共和政期にかけてのベルリンの空気感を捉え、近代都市に生きる人々の孤独感や儚さをも暗示しています。

レッサー・ユリィの影響と後世への評価

レッサー・ユリィは、生前からベルリンの美術愛好家や一部の批評家には評価されていましたが、同時代の他の印象派の画家、特にマックス・リーバーマンのような指導的な立場や広範な名声を得るには至りませんでした。気難しい性格や孤立を好む傾向も影響したと言われています。

彼の死後、ナチス・ドイツの台頭により、ユダヤ人であったユリィの作品は公的なコレクションから排除されたり、海外へ流出したり、あるいは破壊されたりする悲運に見舞われました。これにより、彼の名は一時的に美術史の中で忘れ去られそうになりました。

しかし、第二次世界大戦後、特に1970年代以降になってから、レッサー・ユリィの芸術は再発見され、再評価が進みました。彼の描いたベルリンの情景は、失われた都市の記憶を呼び覚ますものとして、また、印象派の多様性を示す重要な作例として認識されるようになりました。今日、レッサー・ユリィは、ドイツ印象派における独自の地位を確立した画家として、また、20世紀初頭のベルリンの都市生活を詩情豊かに捉えた画家として、世界的に評価されています。「ドイツ印象派」「ベルリンの街景」「夜景」「雨の情景」「光の効果」「パステル画」などのキーワードは、ユリィの芸術を理解する上で重要な要素です。その作品は、ドイツ国内をはじめとする世界各地の美術館に収蔵され、多くの人々を魅了し続けています。