モネはなぜ、変哲もない田舎の「積みわら」を、何十枚も繰り返し描いたのでしょうか? 同じように見えて全く違う表情を持つこの連作の秘密を探ってみませんか?
こんにちは、「アートをもっと身近に」をコンセプトに印象派の名画を中心とした高品質なアートポスターを提供している「artgraph.」店長のマツムラです。
日々多くの名画と向き合う中で、特にモネの「積みわら」連作には心惹かれるものがあります。
この記事では、モネの革新的な試みである連作「積みわら」について、その制作背景、連作として描かれた深い意味、そして光と時間を追い求めた画家の眼差しを徹底解説します。
印象派絵画の真髄に触れる旅にお連れしましょう。
モネ「積みわら」の連作は新たな挑戦!

クロード・モネ(1840-1926)が「積みわら」連作を制作したのは、1890年から1891年にかけてのことでした。フランスのノルマンディー地方、彼が住んでいたジヴェルニーの近くにある小さな村の麦畑に並ぶ積みわらの山。一見何の変哲もないこの農村風景を、モネは約25点もの作品として描き上げたのです。
「積みわら」連作は、同じ場所、同じ対象を、季節や時間帯、天候の違いによって変化する光と色彩の様子を徹底的に追求した作品群です。夏の真昼の強い日差し、夕暮れ時の赤みを帯びた柔らかな光、冬の霧に包まれた朝の静けさ―モネは同じ「積みわら」が時間や季節によって見せる無数の表情を、鮮やかな筆致で捉えました。
モネが「積みわら」をモチーフに選んだ理由
なぜモネは、パリの都会的な風景や、後年描くことになる「睡蓮」のような華やかなモチーフではなく、この質素な「積みわら」を選んだのでしょうか?
まず第一に、積みわらは形がシンプルでありながら、独特の存在感を持っています。円錐形の立体は、光の当たり方によって様々な陰影を生み出し、時間や季節による光の変化を捉えるには絶好の対象だったのです。
第二に、モネにとって「積みわら」は身近な風景の一部でした。彼が50歳を過ぎて落ち着いて暮らしていたジヴェルニーの田園風景。彼はこの日常の中にある美を見出し、それを徹底的に探求したのです。
そして何よりも、「積みわら」は時間と共に変化する「光」という目に見えない現象を、目に見える形で表現するのに最適なモチーフだったのです。
「私が描きたいのは、まさにその瞬間に見えるもの、その瞬間に感じるものだ。」
― クロード・モネ
「積みわら」を連作で描くことの意味

モネが「積みわら」を連作として描いた目的は、単に同じ対象を繰り返し描くことではありませんでした。彼の真の目的は、同じ場所で移り変わる「光」と「時間」を捉えることだったのです。
印象派の基本理念は、「その瞬間の印象」を描くこと。モネは、同じ対象が朝・昼・夕方・夜、晴れ・曇り・霧・雪など、様々な条件下でどのように見え、どのように感じるかを探求しました。これは、単なる風景画の域を超え、時間という概念を絵画に持ち込む革新的な試みだったのです。
また、モネは当時のカメラ技術に影響を受けていたとも言われています。写真が瞬間を切り取るように、彼は絵画でもその「瞬間の光」を捉えようとしたのです。しかし写真と違い、彼の絵筆は色彩豊かに、また感覚的に、その瞬間の光の印象を表現しました。
さらに、連作という手法は、モネにとって芸術的な挑戦でもありました。同じ対象を描き続けることで、彼は「見る」という行為を深め、より微細な色彩や光の変化に敏感になっていったのです。
モネ「積みわら」連作の見どころ
「積みわら」連作の最大の魅力は、同じ風景がいかに多様な表情を見せるかという点にあります。それでは、時間帯や季節によって、モネの筆はどのように変化したのでしょうか。
朝の積みわら
朝の作品では、霧や靄がかかった様子が繊細な筆致で表現されています。青みがかった淡い色調が支配的で、朝の清々しさと静けさが伝わってきます。筆のタッチも比較的穏やかで、輪郭がぼんやりとしているのが特徴です。
真昼の積みわら
昼間の作品では、強い日差しを表現するために鮮やかな色彩が用いられています。青空の深い青と、積みわらの黄金色のコントラストが際立ち、影もくっきりと描かれています。筆致も力強く、色彩の対比が生み出す躍動感が感じられます。
夕暮れの積みわら
夕暮れの作品では、赤や紫、オレンジといった暖色系の色彩が豊かに使われています。西に傾いた太陽の光が、積みわらを温かく照らし出す様子が印象的です。色と色の境界が溶け合い、幻想的な雰囲気を醸し出しています。
冬の積みわら
冬の作品では、雪に覆われた風景が白と青を基調とした寒色系で表現されています。夏の作品との対比が鮮明で、同じ場所とは思えないほどの変化を見せています。筆のタッチも冬の厳しさを表すかのように、より明確になっています。
モネ「積みわら」連作の評価と影響
モネの「積みわら」連作は、当初は批評家から「同じものを何度も描く退屈な試み」と揶揄されることもありましたが、すぐにその芸術的価値が認められるようになりました。
アート・ディーラーのポール・デュラン=リュエルは、1891年に「積みわら」連作の展覧会を開催し、これが大成功を収めます。多くの作品がコレクターによって購入され、モネの経済的成功にも貢献しました。
美術史的に見ると、「積みわら」連作は以下の点で重要な意義を持っています:
- 「連作」という手法の確立 - 後の「ルーアン大聖堂」や「睡蓮」などの連作につながる
- 「時間」という概念を絵画に持ち込んだ革新性
- 印象派の理念(瞬間の印象を捉える)を極限まで追求した作品
- 抽象絵画への橋渡し - 特に夕暮れや霧の作品における形の崩壊と色彩の強調は、20世紀の抽象表現主義に影響を与えた
- オルセー美術館(パリ、フランス)- 最も多くの作品を所蔵
- シカゴ美術館(アメリカ)- 6点を所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク、アメリカ)
- 国立西洋美術館(東京、日本)
- ヒルステッド美術館(マサチューセッツ、アメリカ)
- プーシキン美術館(モスクワ、ロシア)
- ミネアポリス美術館(アメリカ)
- チューリッヒ美術館(スイス)
