パリでの大成功の後、ミュシャは自身のルーツであるスラヴ民族の歴史と神話を描く、巨大な20点の連作絵画『スラヴ叙事詩』の制作に後半生の約16年間を捧げました。これは商業芸術とは一線を画す、彼の愛国心と民族への想いが結実したライフワークです。高さ6メートル、幅8メートルにも及ぶ作品群は、そのスケールと精神性で見る者を圧倒します。これまで紹介してきた華やかなポスターとは作風が異なりますが、ミュシャという芸術家を理解する上で欠かせない、最も重要な作品群として10位に選出しました。

『カーネーション』『アイリス』『薔薇』そして『百合』という4種類の花をテーマにした連作装飾パネルの一つです。純潔の象徴である白百合を手に、こちらを見つめる女性の姿は、神々しいほどの美しさを放っています。頭上の王冠のような飾りや、背景のモザイク模様など、ミュシャならではの装飾的要素が満載。他の花々とセットで飾ることで、より一層華やかな空間を演出できます。

地中海に面したリゾート地、モナコへの旅を宣伝する鉄道会社のポスターです。これまでの作品とは少し趣が異なり、明るい日差しと開放感にあふれています。女性の髪をなびかせる風や、きらめく水面、咲き誇る花々が、旅の楽しさを雄弁に物語っています。ミュシャが描く優雅な世界観と、リゾート地の魅力が見事に融合した作品です。

『ジスモンダ』の成功に続き、サラ・ベルナールのために制作されたポスターの一つ。悲恋の物語『椿姫』のヒロイン、マルグリットを演じるサラが描かれています。星空を背景に、白いドレスをまとったヒロインが、悲しみを湛えながらも凛として立つ姿は感動的です。背景には物語のキーアイテムである椿の花が描かれ、作品の世界観を深めています。銀色を効果的に使った印刷も、夜の場面の雰囲気を高めています。

『絵画』『詩』『音楽』『舞踏』の4つの芸術をテーマにした連作の一つ。風に髪をなびかせ、リズミカルに踊る女性の姿が描かれています。秋風に舞う木の葉が、彼女の動きに躍動感を与えています。流れるような衣服のドレープや、渦を巻くような髪の表現は「線の魔術師」と呼ばれたミュシャの真骨頂。見ているだけで、楽しい音楽が聞こえてくるようです。

「JOB」は煙草の巻紙のブランド名です。髪を豊かに波打たせ、紫煙をくゆらせる女性の姿は、官能的でありながらも洗練された雰囲気を醸し出しています。背景に繰り返し配置された「JOB」のロゴすらも、デザインの一部として完全に溶け込んでおり、ミュシャの卓越したグラフィックデザイナーとしての手腕が光ります。広告でありながら、芸術作品として高く評価されている一枚です。

こちらも非常に人気の高い装飾パネルです。円の中に座り、物思いにふける女性の姿が描かれています。彼女の物憂げでありながらも、どこか見る者を惹きつけるような表情が印象的です。背景には、円を描くように配置された植物のモチーフが、女性の美しさを一層引き立てています。派手さはありませんが、静かで心に響くような詩情あふれる作品で、どんなインテリアにもしっくりと馴染みます。

元々は印刷会社のカレンダーとしてデザインされましたが、その美しさから瞬く間に人気を博し、文字なし版の装飾パネルとしても販売された傑作です。横顔の女性の周りを、黄道十二宮（12星座）のシンボルが円形に囲む構図は、ミュシャ様式を象徴するデザインの一つ。緻密に描きこまれた宝飾品や、流れるような髪の表現はまさに圧巻。神秘的で気品あふれるこの作品は、多くの人々を魅了し続けています。

ミュシャの運命を変えた、記念碑的作品が第2位にランクイン。当時、他の画家が休暇で不在だったため、急遽ミュシャに舞い込んだ仕事でした。縦に長い斬新な構図、淡く上品な色彩、そしてサラ・ベルナールの威厳を見事に捉えたデザインは、パリの街に貼り出されるやいなや大評判に。この成功により、ミュシャはサラと6年間の専属契約を結び、時代の寵児となったのです。ビザンティン風の豪華な衣装や、背景のモザイク模様など、彼のスタイルの原点がここにあります。

栄えある第1位は、ミュシャが初めて手掛けた装飾パネルの連作で、彼の最も人気のあるシリーズの一つ『四季』です！商業広告ではないため、文字情報から解放され、純粋な装飾芸術としてミュシャの才能がいかんなく発揮されました。「春の無垢」「夏のけだるさ」「秋の豊穣」「冬の厳しさ」という、それぞれの季節の雰囲気を擬人化した4人の女性が描かれています。彼女たちを取り巻く植物や色彩が、各季節のムードを完璧に表現。4枚並べて飾れば、お部屋に美しい季節のうつろいと物語が生まれる、まさにミュシャ様式の真骨頂です。